一般社団法人全国肢体不自由児者父母の会連合会 事業部部長 上野 賢
障がい者スポーツはトップアスリートのためだけにあるのではありません。
重度障害児者が観戦するだけではなく、自らが挑戦でき楽しめる「レクリエーションスポーツ」こそ真に普及、推進が望まれています。
2011年6月に成立した「スポーツ基本法」では基本理念やスポーツ施策の基本となる事項が定められていますが、特に、
という2点に大きな特徴があります。
「スポーツをする権利」は、ヨーロッパではすでに40年以上前の1975年「みんなのスポーツ憲章」において宣言されています。
残念ながら、障害児者にとって日本の「スポーツ」は、トップアスリートの活躍を観戦する「見るスポーツ」が主流です。
パラリンピックに代表されるように競技性の高い障がい者スポーツは増えつつあります。
しかし、多くの障害児者、特に重度障害児者が「日常的」に、さらには「生涯的」に楽しめるスポーツは少ないのが現状です。
私たち全国肢体不自由児者父母の会連合会(全肢連)の会員には生涯の軽重に関係なく、だれでも望めば楽しめるスポーツが必要であり、競技スポーツに重点を置く、勝利至上主義ではなく、スポーツの原点でもある体を動かす楽しい遊びという、いわゆる子どものスポーツ観(スポーツ=遊び)が大切です。
この考えのもとに、全肢連では新たなレクリエーションスポーツとして「ハンドアーチェリー」を推進してきました。
ハンドアーチェリーとは、ダーツのようなボードに針のついていないピンをあて、得点を競うものです。
ボードにピンが当たると音が出て点数が掲示され、その合計得点を競います。
ピンの先は針ではなく磁石となっており、協議対象さの身体状況によって投てきする距離や姿勢、ボードの高さなども自由に設定することも可能です。
投てきをすることが困難な方のために補助具も開発されており、児童から高齢者、障碍者まで安全に、また安心して楽しめるように配慮されています。
ハンドアーチェリーの特徴は障がい者だけではなく、両親や兄弟、祖父母や支援者、ボランティア、健常者などすべての方が一緒に楽しめるという点です。
投てきができる方は左右両方の手で投てきをし、普段使わない(利き手ではない)手を使うことにより、肩こり防止や機能改善、訓練にもつながっています。
投てきが難しい方のための補助具は、木製で動力はゴム。
少しの力でレバーが作動しますし、手で押すことができない方は足で押してみたり、口にくわえた棒で押してみたりと工夫されています。
また、ピンを置く位置や力加減、気温や湿度により飛び方も様々で、補助をする方とのコミュニケーションが大切になり、うまくボードに命中したときにはみんな一緒に興奮して笑顔になっています。
もちろん、楽しむためにもある程度の競技性が必要ですが、パラリンピックのような頂点を目指すスポーツだけでなく、だれもが挑戦でき、かつ楽しめる「遊び」の延長上にあるスポーツもまた、ひとつのスポーツ形です。
それを「レクリエーションスポーツ」として位置づけることが今後のスポーツの推進の軸になると考えています。
全肢連では、全国大会やブロック大会、各地区で開催するイベントでハンドアーチェリーを実施しており、少しずつ広がりができています。
地域のお祭りやイベントでの体験会なども開かれており、地域住民や行政、特別支援学校との交流の一助にもなっています。
障がい者スポーツ協会とのコラボレーションや国際福祉機器展への出店などを通じて各所から問い合わせもあり設置も進んでいます。
病院ではリハビリの一環として活用されたり、放課後デイサービス事業所では遊び道具のひとつとして使用されたり、特別支援学校では授業の一環として取り組んでいるところもあります。
一台当たりの設置スペースはおおよそ2m×4m、通路や教室などでも行うことができます。
しかし、多くの参加者に体験してもらうためには、体育館や広めの会議室などで複数台を設置して行わなくてはなりません。
地域のスポーツセンターや特別支援学校の体育館などが開放され、気軽に使用できるようになっていけば、障がい者がもっとスポーツにふれある機会が増えると考えています。
そしてハンドアーチェリー以外にも色々な競技が増えていき、身体状況に応じてやりたい競技を選んでいけるようになっていくことを望みます。
遊び心にあふれたスポーツ。それこそが「レクリエーションスポーツ」であり、真に普及、推進が望まれています。