言語聴覚士 平野千枝
コミュニケーションは、ことば(音声言語)でやり取りするものと思われがちですが、他にも視線や表情、指差しや身振り、実物や絵や写真、文字など様々な手段があります。
コミュニケーションはよくキャッチボールに例えられます。
メッセージというボールを相手から受け取る「理解」と、相手に自分のメッセージを送る「発信」についてサポートできることを考えてみたいと思います。
大きな声ではっきり言えば伝わりやすくなるというわけではありません。
名前を呼ぶ、視界に入るなどして注意・注目を促し、穏やかにわかりやすい方法で伝えます。
わかりやすい方法とは、その人の理解レベルによりますが、状況や事物のヒント(例:「連絡帳を出して」の声掛けではわからなくても連絡帳を入れるケースを見ればわかるなど)や視覚的な手がかり(例:「体育館に行くよ」という声がけではわからなくても体育館の写真を見れば移動できるなど)といった音声以外の手段が理解を助けます。
その人がどんな方法ならわかるかを知って「ことばでは伝わらない」ではなく、「状況の手掛かりがあればわかる」「絵や写真を示すと安心して活動できる」などの捉え方をして関わることが何より重要です。
例えば「のどが渇いた」ということを、飲む身振りをして示す、お茶の絵を指さす、コップを持ってくるなど様々な方法で伝えることができます。
話すことが難しい場合でも、音声だけにこだわらず、身振り、絵や写真、実物などで伝える経験を積むことが大切です。
発信そのものが乏しい場合は、好きなことを介して主体的に人とかかわる練習をします。
例えば、からの食器を相手に渡すとお変わりがもらえる、休み時間に遊ぶものを二つ用意して「どっちにする?」と自分で選んで遊ぶなどです。
また「拒否」の適切な表現を獲得することも大切です。
「これは違う」「いやだ」ということを、泣いたり怒ったり投げたりせずに、穏やかにものを相手に押しやる、手や首を振る、手でバッテンを作るなど、相手に受け入れてもらいやすいような表現方法を身に着けることで、いわゆる問題行動(本人が困っているサイン)が軽減されることがあります。
コミュニケーションはキャッチボールです。
指示を受けてばかりでも、言いたいことを一方的に伝えてばかりでも成立しません。
相手から自分にわかるように伝えてもらう安心感、自分から相手に伝えたいことをわかるように伝えられる喜び。
この経験そのものがコミュニケーションを育てる力となります。