日本リハビリテーション専門学校 助川文子
発達障害とは、子育て方法や、家庭環境によって生じるものではなく、先天的な障害です。
今回は多様な発達障害の中から、知的機能と適応機能に障害が生じる『知的能力障害』と、『自閉症スペクトラム障害』について考えます。
人は、「運動機能」、「言語機能」、「対人・社会性」など、いろいろな領域が相互に影響しあって発達していきます。
この発達期に、定型的な発達と比べ、遅れや違いが生じると、知的機能と、生活に適応していく上で、適応機能に障害が現れます。
狭義の発達障害、自閉症、アスペルガー症候群、また広汎性発達障害など色々な診断名で現されてきましたが、新しい国際基準であるDSM-5で、その基盤となる特徴から、『自閉症スペクトラム障害』として統合されました。
この障害は、重度な知的能力障害を合併する方から、知的能力障害を伴わない方まで、現れ方に多様性があります。
イギリスの医師Wingは、この障害の代表的な特徴を3つにまとめました。
1つは「コミュニケーション」の困難さです。
幼い頃は言葉の遅れを示し、お話ができるようになった場合も、人とのやりとりに困難さが現れます。
次に「対人関係」の困難さです。人間関係を築く上で必要な、他者との共感、適切な距離間がつかめず、一方的になる、緊張しすぎてしまう、また逆に馴れ馴れしくなってしまうことなどが現れます。
最後に「イマジネーション」です。
日本では、「こだわり」と言う方が理解しやすいかもしれません。
「儀式的な行動」と表現されますが、その方なりのこだわりから、決まった行動をしないと活動できない事や、すべき事があっても、切り替えられないといった状態を現します。
また、興味をもつ活動には、強い集中力を示しますが、興味が持てない活動には、まったく関わらないといった、極端な行動としても現れやすいです。
こうした特徴から、知的能力障害の程度や、特に幼く経験が少ない時は、状況に適応できないため、情緒的に不安的になり、泣いて混乱してしまうことがあります。
また、1対1でのやりとりや、慣れてリラックスできる家庭内ではあまり問題になりませんが、学校など、年齢相当の社会性を求められ、集団参加が必要な場面や、はじめて経験する活動では、困難さが現れやすくなります。
代表的な特徴に加えて、個々に多様な困難さをもつ場合があります。
まず、感覚刺激に対する反応の特徴が、行動に影響すると指摘されています。
例えば、避難訓練のサイレンの音など、予想しなかった場面で、急な警告音が鳴ると異常に驚くなど、感覚刺激に対する「過敏さ」、また、友達に強くぶつかってしまっても、ぶつかったことにすら気がつかない「鈍感さ」などです。
日常生活は多様な感覚刺激で満ちており、うまく選別しながら生活する必要があります。
しかし過敏さをもつ場合は、急な刺激を恐れて不安を感じやすく、鈍感さをもつ場合は、乱暴で粗雑な印象をもたれます。
他に、
なども現れやすい特徴です。
幼児期から、その気付かれにくい困難さにより、多くの失敗体験をもつ方は多いです。
また、失敗を恐れる気持ちは、人との関わりや、新しい活動に対する挑戦を阻害し、自分ができる活動を繰り返すなど、こだわりを強める場合があります。
他者が気付く特異な行動や、うまく活動できないことには、それぞれ理由があります。
しかし、問題解決方法を模索し、自ら対処することは難しく、良い経験と支援を通して、学習していく必要があります。
まずは、支援者側からこうした困難さに気付き、「参加しやすく、失敗しない活動を選択する」など、弱い部分への支援を検討する視点が重要です。
また、前述した特徴から、通常では気にならない音・光・見え方・温度なども、感覚刺激による不快さから集中できない場合があります。
そのため、例えば「余分な音が反響しないようにする」など、環境調整することも有効です。
また一方で、彼らは興味を持った活動に対して、強い集中力を持っています。
サッカーが好きになったことから、苦手なホイッスルの音や、集団行動に挑戦し、良い経験ができる場合もあります。
こうした「興味を持てる活動」をステップに、他者の支援を得てながら苦手な部分を補い、学習・経験する機会はたくさんあります。
また試行錯誤していく中で見つけた良い方法を、支援者同士・当事者・ご家族と共有することも重要です。
参考文献:「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き」日本精神神経学会 高橋三郎 大野裕 監訳 医学書院