常用大学 健康科学部 静岡理学療法学科 理学療法士 川田教平
脊髄損傷の障害の特徴は、脊髄の損傷により運動・感覚機能、また肺病・排便、自律神経機能などが障害されることです。
損傷部や合併症の有無が身体活動に大きく影響します。
運動指導を行うときの問題は、褥瘡(じょくそう)※を作りやすく、血圧や体温の調整が難しいことです。
※褥瘡(じょくそう)・・・一般的に「とこずれ」といわれるただれ、傷などのことであり、寝たきりなどによって、体重による圧迫から血流が悪くなったり滞ったりすることが主な原因です。
運動指導にあたり、ストレッチや筋力増強運動、車いす駆動などの全身運動が良いとされています。
脊髄損傷では、損傷部以下の脊髄神経支配領域の手足や体の運動および感覚機能、そして排尿・排便機能や自律神経機能などが障害されます。
損傷部とその程度により機能障害の重症度は異なります。
また、褥瘡(じょくそう)や関節拘縮(かんせつこうしゅく)など、多くの合併症を引き起こす場合もあります。
機能障害 | 合併症 |
---|---|
運動障害、感覚障害、排尿・排便障害 | 褥瘡(じょくそう)、関節拘縮(かんせつこうしゅく)、異所性骨化 |
自律神経障害(自律神経過緊張反射) | 骨萎縮、疼痛(とうつう)、深部静脈血栓症 |
体温調節障害(発汗障害) | 呼吸器・消火器・泌尿器合併症 |
性機能障害、呼吸機能障害 | 外傷性脊髄空洞症、麻痺性イレウス |
損傷部別の残存機能や専門用語の詳細については専門書をお読みください。
脊髄損傷者の日常生活活動の到達度は、
などにより変化するといわれています。
脊髄損傷者では座位姿勢を保持する(バランス)と殿部(でんぶ)を浮かす(プッシュアップ)能力が身体活動を高めるうえで重要です。
脊髄損傷者は、車いすかベッド上で運動することが多いです。
運動を行う際は、機能障害による影響で以下に示す項目への注意と対策が必要です。
注意事項 | 対策 |
---|---|
車椅子 | ・フレームやパーツの破損 ・空気圧、ブレーキの確認 など |
ベッド | ・フレームやマットレス、シーツのしわの確認 など |
褥瘡(じょくそう) | ・好発部位の観察 ・清潔に保つ(汗や尿による湿潤状態を防ぐ) ・除圧動作の促し、出来ない場合は解除で姿勢変換(15~30分おき) |
血圧(起立性低血圧) | ・速やかに頭低位にする(車椅子乗車中は、車いすごと後方へ) |
血圧(突発性高血圧) | ・傷などの刺激がある場合は取り除く など |
体温調節、うつ熱 | ・局所の凍傷に注意して、首の後ろや脇、鼠径部(そけいぶ)を冷やす |
血圧の低下や突発的な上昇、うつ熱の症状が確認された場合、指導者やサポートされる方は、落ち着いて対応してください。
詳細については専門書をお読みになるか、専門家に相談してください。
多くの方が車いす生活を余技なくされます。住居においても乗ってきた車からの乗り移りや、移動を考慮した住宅改修が必要になることが多いです。
一人で動作ができるような改修を行うことで、身体活動を促進することが可能です。
機能障害の程度や家屋構造によりますが、玄関やトイレ、浴室、居室が主な改修個所となります。
いくつかの例を以下に載せます。回収される前に専門家に相談してください。
乗降空間を約120cm確保する
雨よけおよびスロープ等を設置する
浴室
関節可動域維持、残存筋維持・強化、座位バランス向上、体力向上等を目的に自主トレーニングを継続して行うことが重要です。
いくつかの方法を載せます。個別の方法については、専門家にご相談下さい。
ハムストリングスのストレッチ
腕立て伏せ・体幹前面のストレッチ
難しい方は肘を屈曲して行いましょう
両肘立て位での肩甲骨protraction運動
体力維持向上、座位バランス向上を目的に行います。
疲労や痛みのでない範囲から開始し、徐々に距離を伸ばしていきましょう。
距離を記録していくと自己管理に繋がりやすいです。坂道等の駆動も効果的です。
運動を行うことは廃用症候群予防の基本となります。
ストレッチや残存筋の筋力増強運動、車椅子駆動等の全身運動がよいとされています。また、脊髄損傷者が一人で行うことだけが運動ではありません。
サポートする方々が介助をして一緒に座ったり、腕や足の関節を動かすことで全身の血液循環や肺喚起の改善、関節拘縮の予防にもつながります。